2015年7月28日火曜日

『こゝろ』第8回@マレビト

朗読の流れる時間at マレビト vol.10
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読み物:夏目漱石『心(こゝろ)』 第8回
日 時:2015年8月29日(土)19時~ 1時間ほど
場 所:MAREBITO(中央区新川1-3-23/八重洲優和ビル 2階) 
入場料:1,000円
定 員:10名 
要予約:okayasukeiko@gmail.com
朗 読:岡安圭子
Drink :堤純一 ※ドリンク代は別料金です
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「始終接触して親しくなり過ぎた男女の間には、恋に必要な刺戟の起る清新な感じが失なはれてしまふやうに考えています。香をかぎ得るのは、香を炊き出した瞬間に限る如く、酒を味はうのは酒を飲み始めた刹那にある如く、恋の衝動にもこういふ際どい一点が、時間の上に存在しているとしか思はれないのです。」ー「先生と遺書 六十」よりー
 

長い物語も愈半分を過ぎ、「先生と遺書」の部へ入りました。たんたんと語られる先生の過去を、後半もゆっくりと読み進めて行きたいと思います。
お時間ございましたら是非お立寄りください。


2015年7月27日月曜日

『こゝろ』第7回終了しました

『こゝろ』朗読会第7回を終了しました。暑い中足を御運びくださった皆様、ありがとうございました。壁際にいた私の耳には届きませんでしたが、窓際のお客様には遠くの花火の音が聴こえていたとのことです。そういえばいつかの夏の夜にも、音だけの花火を楽しんだ事がありました。『イギリス人の患者』を読んだ朗読会の帰り道でした。
次回は8/29(土)に。少しは暑さが和らいでいるとよいのですが。


9月には益子の土祭へ参加させて頂きます。
詳細はこちらで順次お知らせしていきたいと思います。

2015年7月25日土曜日

「uusikuu」AYA NAKADA

AYA NAKADAさんのAlbum「uusikuu」の帯の言葉を書かせて頂きました。アルバムタイトルの「uusikuu」とは「新月」という意味だそうです。新月って、そもそもどういう状態なんだろう?と調べてみたら、太陽と重なるとき、そして其の瞬間の月は見えない状態であるとのことでした。その神秘さにひかれ、また音のない壮大な星たちの動きを想像するときに、このAlbumはぴったりだと思いました。




「一人の時間に添える音」

気配で感じる外の雨
昔々のあの人との会話
月の重なり、ほんとうの静けさ

見えない音を思い出すために


9月16日から全国リリースとのことです。
是非お手にとって、耳に心地よい音を御楽しみください。

AYA NAKADAさんのHP
http://ayanakada.blogspot.jp/search/label/news


前回のあらすじ 06

『心(こころ)』 前回のあらすじ

■第六回(2015年7月4日) 
「両親と私 四十一から四十八」
 
父の元気は次第に衰えていった。
八月の半ば頃になって、私はある朋友から手紙を受け取った。地方の中学教員の口があるが行かないかと書いてあった。私はすぐ返事を出して断り、父と母に其話をした。二人とも私の断ったことに依存はなかった。「そんな所へ行かないまでも、もっといい口があるだろう」迂闊な父や母は、不相当な地位と収入とを卒業したての私から期待しているらしかった。「お前のよく先生々々といふ方にでも御願いしたら好いぢゃないか。こんな時こそ」
私は生返事をして席を立った。

父や母の手前、地位を出来る丈の努力で求めつつある如くに装ほはなくてはならなかった。私は先生に手紙を書いて家の事情を詳しく述べ、出来る事があったら何でもするから周旋してくれと頼んだ。私は先生が私の依頼に取り合ふまいと思いながら此の手紙を書いた。先生からは一週間経っても何の音信もなかった。

私が愈東京へ立たうといふ間際になって、父は又突然引っ繰り返った。私は不安の為に、出立の日が来てもついに東京へ立つ気が起こらなかった。又三四日過ごし、父が又卒倒した。医者は絶対臥あんがを命じた。
父の病気は同じやうな状態で一週間以上つづいた。病人があるので自然家の出入りも多くなった。其の中に動かずにいる父の病気はただ面白くない方へ移って行くばかりであった。私は母や伯父と相談して、兄と妹に電報を打った。

私が父の枕元を離れて、独り取り乱した書物の中に腕組みをしている所へ母が顔を出した。
「御父さんの生きて御出のうちに、御前の口が極ったら嘸(さぞ)安心なさるだらうと思ふんだがね。此様子ぢゃ、とても間に合わないかも知れないけれども、まだ口も慥かなんだから、ああして御出のうちに喜ばして上げるやうに親孝行をおしな」
憐れな私は親孝行の出来ない境遇にいた。私は遂に一行の手紙も先生に出さなかった。

兄と妹の夫とが実家へ着いた。父の病状について、我々よりも楽観的であった。そうしているうちに突然私は一通の電報を先生から受け取った。電報には一寸会いたいが来られるかといふ意味が簡単に書いてあった。兄や妹の夫迄呼び寄せた私が、父の病気を内遣って、東京へ行く訳には行かなかった。私は母と相談して、行かれないといふ返電をうつ事にした。出来る丈簡略な言葉で父の病気の危篤に陥りつつある旨も付け加えたが、夫でも気が済まなかったから、委細手紙として、細かい事情をその日のうちに認ためて郵便で出した。頼んだ位地の事とばかり信じきった母は「本当に間の悪い時は仕方のないものだね」と云って残念そうな顔をした。

2015年7月7日火曜日

『こゝろ』第7回@マレビト

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読み物:夏目漱石『心(こゝろ)』 第7回
日 時:2015年7月25日(土)19時~ 1時間ほど
場 所:MAREBITO(中央区新川1-3-23/八重洲優和ビル 2階) 
入場料:1,000円
定 員:10名 
要予約:okayasukeiko@gmail.com
朗 読:岡安圭子
Drink :堤純一 ※ドリンク代は別料金です
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「御前これから何うする」と兄は聞いた。私は又全く見当の違った質問を兄に掛けた。
「一体家の財産は何うなってるんだろう」
「おれは知らない。御父さんはまだ何とも云わないから。然し財産って云った所で金としては高の知れたものだろう」
母は又母で先生の来るのを苦にしていた。
「まだ手紙は来ないかい」と私を責めた。


ー「両親と私」 四十九 よりー

この日で「両親と私」の回を、そしてこの長い物語の半分をようやく通過することになります。
父も母も兄もそれぞれの立場から「私」に語りかけ、その生々しさにひやりとします。物語はいよいよ「先生と遺書」の回へ。前回までのあらすじもご用意して、同ビル二階へお引っ越ししたマレビトにてお待ちしております。


2015年7月6日月曜日

『こゝろ』第6回終了しました

先週の土曜に、『こゝろ』第6回を無事に終えました。
ご来場頂いた皆様、お気遣い頂きました皆様、本当にありがとうございました。

徒歩5階から2階へ、スペースが少し狭くなりなんだか誰かのリビングのような雰囲気もあるマレビトにて、今回はろうそくを一本だけ灯しました。どこかホッとするような空間で、「両親と私」の回を読み進めます。大きな出来事は起こらないけれども、親子の生々しい心情がわかる文章に、若い頃に読んだのとは違う感動を覚えます。

次回は7/25(土)の夜に。隅田川の花火で静かになった茅場町へ、ご来場お待ちしております。



2015年7月4日土曜日

前回のあらすじ 05

『心(こころ)』 前回までのあらすじ

■第五回(2015年5月31日) 
「先生と私 三十三から三十六」
「両親と私 三十七から四十」

6月、私は卒業論文を書き終え、予定通り及第した。卒業式の晩、先生のうちへ御馳走に招かれていった。食後に奥さんの手製のアイスクリームを頂いていると、先生が聞いた。
「君も愈卒業したが、是から何をする気ですか?」
私にはただ卒業したという自覚がある丈で、是から何をしようという目的もなかった。
「本当いふと、まだ何をする考えもないんです。実は職業といふものに就いて、全く考えたことがない位なんですから。だいいち何れが善いか、何れが悪いか、自分が遣ってみた上でないと解らないんだから、選択に困る訳だと思ひます。」

私は其夜十時過に先生の家を辞した。二三日うちに帰国する筈になっていたので、席を立つ前に私はちょっと暇乞いの言葉を述べた。先生も此夏は何処かへいくかも知れない、とのことだった。
「時に御父さんの病気はどうなんです」と先生が聞いた。この前の冬に父の病気がわかり、帰国したばかりだった。私は父の健康について殆ど知るところがなかった。何とも云ってこない以上、悪くはないのだろう位に考えていた。「本当に大事にして御上げなさいよ」と奥さんもいった。すると先生が突然奥さんの方を向いて「静、御前はおれより先に死ぬだろうかね」と聞いた。
「もしおれの方が先に行くとするね。さうしたら御前何うする」
「何うするって・・・、仕方がないわ、ねえあなた。老少不定っていふ位だから」
奥さんはことさらに私の方を見て笑談らしくこういった。


それから三日の後に、私は汽車で国へ帰った。